~かわうそ君たちは今の時代にどう生きる?~
「不条理ギャグ漫画」の草分けとして一世を風靡し、社会現象になった、あの伝説の漫画『伝染るんです。』が4月、東京新聞を舞台として、27年ぶりに4コマ漫画の連載で復活します。題名は、本紙キャラクターでもある「かわうそ君」を前面に押し出した新装「かわうそセブン」。毎週2回、土・日曜日の掲載です。連載開始にあたり、作者の吉田戦車さん(57)に復活への決意や新題名に込めた思いを伺いました。
(聞き手・東京新聞)
――「かわうそ君」は昨年2020年から東京新聞の広告キャラクターになっていただき、「空気は、読まない。」のキャッチコピーも定着してきました。さらに、新たに漫画を連載していただくことになりました。そもそもは弊紙の方からのお声かけで、とても唐突だったと思うのですが。
<吉田戦車(以下吉田)>ありがたいと思いました。ただ、大丈夫だろうかという気持ちはありました。
――大丈夫かって、先生が、ですか?
<吉田>『伝染るんです。』を知らない方も多いのではないだろうかと。
――でも、知っている方は本当に多いですし。ファンも多い。
<吉田>ただ、新たに小さいお子さんとかも、見慣れてくれたらうれしいかなとは思いました。かわうそを主役とした漫画は描いていましたが、4コマ漫画の連載としては27年ぶりです。
――『伝染るんです。』は今読んでももちろんとても面白い漫画ですが、当時の連載は1989年~94年で、まさに平成の始まりと同時であり、バブル経済の末期と崩壊の時期でした。そして今回は2021年。令和となり、このご時世、コロナ禍での再開となります。やはり変化が?
<吉田>もちろん、変化は当然あります。僕自身の変化もありますし。前回は僕自身、20~30代にかけての怖いものなしみたいな感じでしたが、今は、もうそんな感じはないですし。表現の面でも、規制とまでは言いませんけど、「これ描いちゃだめ」みたいなものが自分の中でどんどん積み重なってきています。かつて、「不条理」ととらえていただいていた「不気味」「気持ち悪い」「居心地が悪い」という部分は、多少はその牙みたいなものを納めざるを得ないのかなという気もあります。その辺はもう30数年間、現場で悩み続けてきたところではありますけれども。今ならではのものにしていくしかないと。でもまあ、やはり始めてみないと、と思っています。
――媒体も、前回は漫画雑誌、今回は新聞です。
<吉田>そうなんです。やっぱり新聞は、おじいちゃんおばあちゃんから子どもさんにまで読んでもらえる媒体だと思うと、わかりやすくしたいとは思っています。あと、前は1週間に5本を掲載していたので、1つ2つ外しても大丈夫みたいな(笑)。でも今回は1日1本を週2日。そういう意味でも勝手が違うかもしれない。
――いろいろな意味でものすごいことにあえて挑戦していただける、また読めるということ。奇跡のような連載復活です。
<吉田>そうですね。以前、(東京新聞で)「ちびまる子ちゃん」(さくらももこ作)を連載していましたね。4コマになってもまるちゃんはまるちゃんだな、まるちゃんワールドだなって思っていました。あれが理想というか、目指したいと思っているのですけどね。
――今回の連載のタイトルは「かわうそセブン」です。どういう意味なのでしょうか?
<吉田>わかりやすく、なんとなくパート2感が出る感じで「セブン」と。
――「セブン」というと、まず「ウルトラセブン」。
<吉田>幼稚園のころですかね。リアルタイムで視聴した世代ですね。
――では、実際に「ウルトラセブン」から来ているのですか?
<吉田>「ウルトラセブン」「ワイルド7」「七人の侍」「荒野の七人」…。7人ものは皆ですね。大体かっこいいですよね、「セブン」と付くのはね(笑)
――「かわうそセブン」ですから、7人…と言いますか、登場は7匹?7体?
<吉田>キャラは全然決まっていないんですけど(笑)。ただ、大体7体くらいで収まるんじゃないかと。なんならあふれるくらいたくさんいますけど(笑)。あまりそこまで定義しないで進めようかと考えています。新キャラもいるかもしれない。あいまいに、ほわっと(笑)
――「セブン」には他の意味も込められているとの情報もあります。
<吉田>それもいいんじゃないですかね。
――かわうそ君以外の「セブン」のメンバーはお楽しみということですが、新連載でも登場するであろう往年の人気キャラクターたちについて、作者ご自身から「一言解説」をいただけますか。まずは、もちろん、「かわうそ君」について。
<吉田>かわうそは、最初は街角にいる変な人みたいな感じで出てきました。でも、人っぽいんですけど、人が扮装している訳じゃない。ニホンカワウソかというと、種としては絶滅してしまっているわけですし。まあ、なんとなく妖怪とか妖精の一種みたいなものなのじゃないかと。自由に日本の自然の中で生きている感じの、街の片隅とかに立っている感じの、そういうキャラクターになりました。かわうそ君は、基本的なところは今も変わらないですね。
――平成の連載では、ハワイにめちゃめちゃ憧れていて、行ったことのあるかっぱ君に激しく嫉妬していました。ねたんでいた。
<吉田>令和になって、何に嫉妬するのか(笑) 海外じゃないな、とかね。
――そもそも、「かわうそ君」はどうやって生まれたのですか?
<吉田>飲み屋で当時の4コマ漫画の担当者と打ち合わせ中、コースターの裏か何かにささっと描いたら、「それ出しゃいいじゃん」と言われまして。最初、自分でも「こいつなんだろう」と思って、上に「かわうそ」ってひらがなで文字を書いたらハマっちゃったんです。突然降りてきて、当時は天から授かるみたいな気持ちもありましたね。
――すごいお話ですね。ありがとうございます。
――では、次はやはり「かっぱ君」。
<吉田>かっぱ君はかわうそ君の相棒みたいな感じで出てきて。かっぱという妖怪の正体がカワウソ説みたいなものも踏まえつつ、水辺の仲間達みたいな感じで。基本、常識人ですね。
――「かえる君」は。
<吉田>かえる君は、かわうそ、かっぱという比較的どっちも突っ込まないままの2人のところに突っ込み役として現れた存在です。やはり常識人といいますか。
――次は「椎茸(しいたけ)」を。個人的には偏愛しております。
<吉田>僕の中では、「かわうそ君」と2トップです。
―――ええ!! そうだったんですか! あのいつも恨めしげで最後には泣いている椎茸が…。
<吉田>僕が好きなキャラです。まあ、全員好きなんでけども。
――そうですよね。
<吉田>椎茸は、この4コマ漫画の中で、孤高の存在です。
――こ、孤高(笑)
<吉田>椎茸は、自分が椎茸であることの自意識を過剰に持て余しているキャラで(笑)。マツタケをうらやんでみたり、サルノコシカケになりかわってみたり。椎茸という食材でもあり、菌類でもあるというアイデンティティを求めて、これもまた戦っています。
――吉田先生は、椎茸はお好きなのですか? それともお嫌い?
<吉田>小学生のころ苦手で、その後克服して好きになったんです。そのことが、椎茸のキャラづくりに出ていますね。
――そして、これも大物です。「斎藤さん」。
<吉田>最初は大学受験をする浪人生として登場しまして、そこから一応大学生にはなれて、学生生活などをそれなりに謳歌しつつ、就職にもチャレンジする途中に、なぜか人間の養子を迎えたり。なかなか不思議な。最後はいつも泣いていますね。でもまあ、カブトムシです。この人は明確に、カブトムシでいいと思います。
――斎藤さんを巡る全体もまた不条理で面白いのですが、たとえば、斎藤さんの家の家賃が5円とか、あの部屋の中が広いんだか狭いんだか。
<吉田>(笑)
――斎藤さんは今も同じ家に住んでいるのか、何をしているのか、いろいろ気になりますが、新連載を楽しみにします。
<吉田>これから自分の中で、昔の自分の中にいる彼らを掘り返していくという作業だと思いますので、気合いを入れてやりたいなと思っています。
――では最後に、読者の方へ。
「かわうそ君」たちの4コマ漫画をかつて楽しんでいた方々、そして、これから初めて読もうという方々…それぞれ向けにお願いします。
――まず、かつて楽しんでいただいた方々へ。
<吉田>できるだけ昔のキャラクターのイメージを損なわないように。彼ら彼女らが今何やっているのかっていうのを。でも時間は経っているしそれなりに変わっているっていうところも含めて。それこそ年齢なんて考えたら何歳になっているんだろうというのはあまり考えないようにしています。でも、平成じゃなくなったんだよというところで、その変化を楽しんでいただけたら、と思います。
――そして、新たに読んでいただく方々へ。
<吉田>とにかくばかばかしい、人をびっくりさせるようなことをずっと考えて描いた4コマだったんで、そういうことをやりたいという気持ちは今も変わりないので。そういうところが皆さんに届くといいなと思っています。ばかばかしいことを、真剣にやりたいですね。
【吉田戦車】1963年、岩手県生まれ。1989年から「ビッグコミックスピリッツ」にて『伝染るんです。』を連載し、「不条理ギャグ漫画」のジャンルを確立して大ヒット、社会現象に。1991年文藝春秋漫画賞を受賞。作品を収録した単行本全5巻(小学館)は累計発行部数300万部以上。「ビッグコミックオリジナル」にて『出かけ親』、「ビッグコミックオリジナル増刊」にて『そぞろマン』(小学館/2作品共通)を連載中。妻は漫画家の伊藤理佐さん。
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