“泣けるアニメ”として度々名前の上がる『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』。シリーズ完結編となる『劇場版 ヴァイオレット・エヴァーガーデン』(2020)が、2022年11月25日に地上波にて初放送となります。
今作は、TVアニメ版でも屈指の人気を誇る第10話から繋がる物語であり、アニメシリーズでは描かれなかったヴァイオレットのその先、ずっと探していた“ある言葉”の意味に迫る物語となっています。
それでは、TVアニメと特別版(外伝)を経て、ついに完結に至った本作を解説していきます。
代筆業に従事する彼女の名は、「ヴァイオレット・エヴァーガーデン」。
人々に深い、深い傷を負わせた戦争が終結して数年が経った。 世界が少しずつ平穏を取り戻し、新しい技術の開発によって生活は変わり、人々が前を向いて進んでいこうとしているとき。 ヴァイオレット・エヴァーガーデンは、大切な人への想いを抱えながら、その人がいない、この世界で生きていこうとしていた。 そんなある日、ヴァイオレットへ依頼の電話がかかってくる。依頼人はユリスという少年。一方、郵便社の倉庫では、一通の宛先不明の手紙が見つかる……。
※以下、『劇場版 ヴァイオレット・エヴァーガーデン』と原作小説、TVアニメシリーズのネタバレを含みます。
世界中が待ち侘びた劇場版
『劇場版 ヴァイオレット・エヴァーガーデン』公開への道のりは、当初の予定より長いものでした。
そのあゆみを最初期までたどると、原作小説まで立ち返ります。2018年4月に刊行された原作小説の下巻で、ヴァイオレットとギルベルトは無事に再会を果たすのですが、同時期に放送されたTVアニメシリーズでは、ギルベルトの生存も示唆されず、二人は会えないまま最終回を迎えました。
元々、TVアニメシリーズは原作との改変が多く、登場人物の変更、話の構成順の組み替え、さらにアニメオリジナルのエピソードを加えたりと、様々な点で独自の世界観を構築し、アニメーションだからこそ出来る表現にこだわり抜き、本作を大ヒットコンテンツへと導いたのです。
そんなTVアニメの終了から約1年を経た2019年、原作小説の3作目にあたる「ヴァイオレット・エヴァーガーデン 外伝」に収録されていた物語が『ヴァイオレット・エヴァーガーデン 外伝 -永遠と自動手記人形』として映像化。そして、完全新作の『劇場版 ヴァイオレット・エヴァーガーデン』が2020年1月に公開に控えていました。
ファンとしては、ヴァイオレットが人生を通して追い続けてきたギルベルトとの再会や、ついに“愛してる”の言葉の意味にたどり着くのだ…と期待が高まっていた矢先、制作会社である京都アニメーションにて放火事件が発生しました。
企画の存続は決定したものの、京都アニメーションは公開延期を発表。またこの年、追い討ちをかけるように新型コロナウイルスが世界的に流行し、再延期が発表されました。
延期を重ねた本作は2度の困難を乗り越えて、2020年9月18日についに劇場公開されました。深夜アニメの劇場版としては異例の大ヒットとなる興行収入21.3億円を突破しました。凄惨な放火事件やコロナ禍で様々な不安が募る中、ファンにとって今作が心の救いになったことは間違い無いでしょう。
TVアニメシリーズとのリンク
原作を読んでいる人にとっては、ギルベルトとヴァイオレットの再会にそれほど驚くことはなかった一方で、アニメシリーズは原作から大きくアレンジされていたこともあり、劇場版で本当にヴァイオレットはギルベルトと再会できるのか…という確信を持てなかったと思います。
しかし、アニメシリーズのヴァイオレットが独自に歩んで来た経験の片鱗は、『劇場版ヴァイオレット・エヴァーガーデン』の各所で見つけられます。例えば、冒頭で市長が語る、ヴァイオレットが公開恋文を執筆した話はTVアニメ第5話で描かれた内容です。
また、ヴァイオレットらが制服の襟に付けているバッヂは、代筆業を担うドールの証。このバッヂはTVアニメ第3話で、ルクリアという少女の兄へ向けた手紙を代筆したことで、ヴァイオレットが獲得する印象的なアイテムでもありました。
そしてTVアニメのエピソードの中でも、今回の『劇場版ヴァイオレット・エヴァーガーデン』で大きく関わることになるのが第10話。この第10話で描かれるのが、重い病気を患っているクラーラがまだ幼い娘のアンのために、50年分の手紙をヴァイオレットと共に書き上げるという内容でした。このエピソードがそのまま『劇場版ヴァイオレット・エヴァーガーデン』の冒頭、デイジーの話に繋がっています。
TVアニメでは幼かったアンはすでに亡くなっており、その孫となるデイジーがヴァイオレットの軌跡を辿っていく劇場版。TVアニメ第10話のベースとなる物語は原作小説にもあったのですが、今回思わぬ形で劇場版とリンクすることになりました。
『劇場版ヴァイオレット・エヴァーガーデン』はTVアニメシリーズを見ていなくても楽しむことはできる一方で、随所にTVアニメシリーズをふまえた内容が登場しています。TVアニメシリーズを観てから今回の映画を見直すと、よりヴァイオレットの成長の厚みが感じられることでしょう。
“海”という隠れたもう一人の主役
こうして『劇場版ヴァイオレット・エヴァーガーデン』の成り立ちやディテールを追っていくと、TVアニメシリーズの延長線上にあるものという見え方が強まりますが、実は、TVアニメと劇場版には大きな違いがあります。
もともとTVアニメシリーズでは16:9の比率で描かれた画面を、劇場版では2.31:1という大幅に横長なサイズで描きあげることに挑戦した作品でした。これにより、街や山々、そして海の広大さがよりダイナミックに伝わり、画としての力がより増しています。
中でも“海”は、今回の劇場版でもキーとなる舞台です。ヴァイオレットが起草した“海”への賛歌が、のちにギルベルトの暮らす島まで通じ、ギルベルトに再びヴァイオレットの存在を想起させることになります。賛歌に綴られている通り、“全ての世界につながる”役割を思わぬ形で担うことになるのです。
一方で、この“海”の広大さに阻まれ、ヴァイオレットは危篤状態のユリスのもとに駆けつけられないという事態も迎えます。繋がってはいるはずなのに、抗えない距離。それはそのまま、ヴァイオレットとギルベルトがなかなか再会できないもどかしさにも通じていきます。
そんなもどかしい距離も、映画の最後にはついに埋まることとなります。それぞれの想いとは裏腹な行動の果てに、ついにお互いの本心に従い、海岸で再会を果たします。これはヴァイオレットが書いた賛歌の“今も過去も未来も包み たゆたうあなたに身を委ねて”の一節にも通じるものとなっています。“海”から始まったこの物語は、激しい嵐を経て大地に降り注ぎ、再び海へと帰っていく物語だったのです。
劇場版だからこそできた雄大な美術が、そんな隠れた主人公である“海”を存分に活かす働きをしてくれました。小説やTVアニメをまだ追えていないという人も、まずはこの劇場版で描かれる雄大な景色を存分に堪能してから、ゆっくりとヴァイオレットの歩みを辿っていくのも、悪くないでしょう。
(C)暁佳奈・京都アニメーション/ヴァイオレット・エヴァーガーデン製作委員会
※2022年11月25日(金)時点での情報です。
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