主演女優賞は「老後の資金がありません!」(前田哲監督)の天海祐希(54)が受賞した。コメディー作品の主演が同賞を受賞するのは初めて。家計のピンチに立ち向かう主婦の馬力は「コメディエンヌの完成形」と高い評価を集めた。
「人を笑わせるのは難しいことなので、とても光栄です。プレッシャーはなかったですね。私がトークで3分間笑わせるなら別ですが、監督も心強い共演者もいる。安心して取り組むだけでした」
撮影はコロナ禍前の19年。感染拡大で1年の公開延期に見舞われたが、漠然とした閉塞(へいそく)感が長引く今、「笑いたい」という人々の願いに応える形になった。
当事者の中高年世代ばかりか、孫との3世代観賞や若いカップル層などにも広がりもみせ、観客動員は26日、100万人を突破した。「うれしいですね。コロナにやられっぱなしじゃ腹が立つ。延期されたおかげで、逆に神懸かりのタイミングで公開できたと言いたい。スクリーンの前で、見ず知らずの人同士が笑い合える映画の幸せをお届けできて、意味はあったと」。
しゅうとめ役は草笛光子(88)。SKD(松竹歌劇団)出身の草笛と、宝塚歌劇団出身の天海の夢の共演となった。「あなたに宝塚は無理よ」のくだりは爆笑名場面となり、2人で越路吹雪の「ラストダンスは私に」を歌うシーンは幸せな名場面となった。「宝塚出身でよかったと思うことは山ほどありますが、今回の経験もそのひとつです」。
54歳のいま「めちゃめちゃ幸せ」と話す。「才能豊かな人がたくさんいる中で、こうしてお仕事をいただけて、皆さんに見てもらえて。その期待に応えられる自分でありたい」。今がとてもラクなのだという。「いろんな可能性があって選択を迫られる若い頃と違って、50代になると、できないことを切り捨てていける。必要なものだけが残っているからラクですよ。50代、60代はこんなに楽しいという姿を、微力ながら見せていけたらと思います」。【梅田恵子】
◆選考経過・主演女優賞 「年を取ることをポジティブにした演技」(三輪祐見子氏)などと評価された天海が1回目の投票で首位も、2位タイの尾野真千子と瀧内公美の支持も根強く、2位同士の投票を勝ち抜いた尾野と天海で決選投票を行い天海が僅差で制した。
◆天海祐希(あまみ・ゆうき)1967年(昭42)8月8日、東京都生まれ。宝塚歌劇団第73期生。93年、史上最短で男役トップ就任(月組)。95年退団。「女王の教室」(05年、日本テレビ)、「BOSS」(09年、フジテレビ)など主演ドラマ多数。14年から、テレビ朝日系「緊急取調室」も人気シリーズに。171センチ、血液型O。
◆「老後の資金がありません!」 節約好きの後藤篤子(天海)は夫章(松重豊)の給料とパートで稼いだお金をやりくりして老後の資金をためてきた。しかし親の葬式、娘まゆみ(新川優愛)の派手婚、しゅうと芳乃(草笛光子)の浪費で貯金0円が目前に迫る。
▽昨年「MOTHER マザー」などで主演女優賞を受賞した長澤まさみ(34) 主演女優賞おめでとうございます。天海さんとは以前、ドラマ「GOLD」で上司部下の関係で共演させていただきました。役の裏でも現場のリーダーであり、パワーの源である天海さんのもとで「本当の力」を目の当たりにしたように思います。現場でおすそ分けしてくださったピクルスの味は、一生忘れる事はありません。優しく、温かい、出来たての繭のようにしなやかな天海さんは、永遠に後輩たちの憧れの的なのだと思いました。また、ご一緒出来るよう精進致します。
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